憲法96条改定と政治改革2013/04/30 01:57:32

自民党は、日本国憲法を改定出来ないのは、96条の改定要件が厳格過ぎるからだ、と言います。
果たしてそうでしょうか?

アメリカ合衆国憲法ではその修正発議のために、上院・下院両議院の3分の2の賛成が必要です。或いは、全州の3分の2の議会の請求により、修正発議の為の憲法会議を招集することが必要です。
そして、その発議に対し、全州の4分の3の議会による承認、または4分の3の州における憲法会議による承認が必要です。
国民投票こそ不要ですが、憲法改正に対して高いハードルを設けていると言えます。

では、憲法改正要件が厳格だからと言って、米国はこれまで憲法改正をしていないのでしょうか?
いいえ。1945年の第二次世界大戦後、アメリカ合衆国は6回、憲法改正を行っています。

オーストラリアでは戦後、3回の憲法改正が行われていますが、この国の憲法改正には、連邦議会両院の過半数で可決した後、全州での州民投票(国民投票)での可決が必要です。その可決要件は、「連邦全体の総投票数の過半数」かつ「過半数の州における過半数の賛成」となっています。


カナダでは同様に18回以上の憲法改正が行われましたが、その要件は、連邦議会での上院・下院の議決後、3分の2以上の州議会での議決が必要、ただし、議決した州人口が全体の過半数あること、となっています。
更に、重要事項(国王や総督の権限変更、下院選挙に対する州の権利など)については、連邦議会両院の議決と全州議会の議決が必要となっています。

このように、改定要件が厳格な国であっても、1945年以降、憲法改定は行われています。
もし、我が国で戦後、憲法改定が行われていない原因が厳格な改定要件に在ると言うなら、これらの国で一度ならず改定が為されているのは何故だというのでしょうか?

勿論、我が国やこれらの国よりも改定要件が低い国もありますし、もっと厳格な国もあります。

デンマークでは、国会(一院制)が改正案を議決した場合、国会の総選挙が行われ、総選挙後の国会で改正案を無修正で再議決した後、国民投票で是非を問われます。国民投票での承認条件は、投票数の過半数の賛成かつ全有権者の40%以上の賛成となっています。

憲法改定に、総選挙を挟んで2度の国会議決を必要としているのです。スペインも同じような要件を保持しています。

スペインでは、改正案の議決には基本的に国会両院のそれぞれ5分の3以上の賛成が必要で、その後、国民投票での過半数の賛成が必要とになっています。
更に、憲法の全面改正、人権規定、その他特定の重要規定については、両院の3分の2以上の多数の議決により改正を承認した後、国会を解散し、その後の新国会で改正案を審議し、また両院の3分の2以上の多数で議決、その後に、国民投票による過半数の賛成が必要です。

このように、我が国憲法の改定要件が特に厳しいという訳でも決してありません。

改定要件が我が国と同等、或いはもっと厳しい国々でも戦後、何度かの改定は行われている。
これは、我が国で憲法改定が為されてこなかった原因は、その改定要件の厳格さにあるのではない、ということを意味しています。

戦後これまで、我が国で憲法改定が為されなかったのは、
単に、問われてきた憲法改定の内容が国民の支持を受けて来なかった、或いは、国民の支持を得る為の努力が足りなかった、というだけのことです。
これらのことを棚上げにして、たまたま小選挙区制という制度により3分の2を超える議席を得られそうな期を捉えて、制度を変えてしまおうというのが、今の96条改定論者の意図です。
政治家としての識見も度量もない者たちが、憲法により国民に保証された権利を奪おうとするものです。

既に似たようなことを私たちは経験している筈です。

1990年前後、繰り返される金権政治と政治の疲弊に政治改革が叫ばれ、その答として現在の小選挙区制が導入されました。

しかし、それで政治は変わったでしょうか?

政治改革には、政治(家)の質の向上、そのためには情報公開の徹底化、政治過程の透明化が必要だと指摘されてきました。しかし、それを嫌がった政治家たちは答を制度変更にすり替えたのです。
その「答」が小選挙区でした。小選挙区制への変更が政治改革だとされ、その過程で情報公開の徹底も透明化もうやむやにされ、今日に至っています。

結局、政治(家)の質は何も変わらずに政治の疲弊化は更に進み、金権政治は原発に代表される産官学複合体により、国民の目に晒されないところで膨らみ続けていることが明らかになりました。皮肉なことに福島原発事故が無ければ、その実態はずっと隠されたままだったでしょう。更に、日本列島強靱化と称して公共事業の大盤振る舞いで金権政治は更に息を吹替えそうとしています。

地道に、国民一人一人が変わり、政治家一人一人を変えて行く事無しに、どんなに制度を弄っても、状況は悪化することはあっても良くなることなど決してない。

政治改革の為として導入された小選挙区制が政治を良くしたか?
そのことを考えるだけでも、
96条という憲法改定制度の変更が、我が国憲法を、引いては私たちの政治を良くする術では決して無いことは明らかです。

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