「幸福」2008/09/21 00:23:00

シネ・ヌーヴォ九条『市川崑監督追悼特集上映』

「幸福」
エド・マクベイン原作故の権利関係のせいか、ロードショー公開以後は殆ど上映されていない作品。
現在はフィルムセンターが所蔵しているらしい。
銀残しによりくすんだ色調にしたことがこの映画のテーマを見事に強調していると思う。

最近たまたま本で読んだのだが、不安神経症というのは極度のストレスにより精神に変調を来す症状だそうだが、その現れ方には、暴力的になる症状と、逆に喜怒哀楽の感情が現れなくなる症状の2種類があるということだ。

この映画での(銀残しにより強調されている)色のくすんだ社会の描写は、その不安神経症のように深く病み、喜怒哀楽を失いつつある今の社会のありようを見事に表現しているように思える。
それでいてそこに描かれて行くのは、不安神経症によるもう片方の症状のように、極めて暴力的な事件だ。

このような内容の作品においても市川崑監督の軽妙なところは、最初の方の病院のシーンで、谷啓を始めとする刑事たちが話しているところへ看護婦が現れる箇所等に伺われる。
しかし、この映画を観た者に最も印象深く残るのは、恐らく、水谷豊演じる刑事の家庭生活や、市原悦子扮する女とその家族の生活の重苦しさであり、それ故にこそ、その中から幸福を求めて行こうとする水谷豊とその子供らに心打たれる。

冒頭の公衆電話ボックスで話す中原理恵のアップから永島敏行への切り返し、そこから生活道路を埋め尽くすように連なり走るトラックの描写とその回りの人々の様子、とカットの連なりも軽快でかつこの作品のテーマをしっかりと伝えている。
心に残る傑作だ。

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